タイの広大な大地には、その土地の環境に合わせて独自の進化を遂げたワイルドベタたちが存在します。現在、タイの「泡巣を作るグループ」は大きく5つの系統に分けられており、それぞれが異なる色彩とフォルムを持っています。
第3回では、タイ漁業局の資料をもとに、これら5大系統の生息地と特徴を詳しくご紹介します。
1. 中央・北部タイ:ベタ・スプレンデンス (Betta splendens)
すべてのベタの原点ともいえる存在です。バンコク周辺を含む中央部から北部にかけて広く分布しています。
- 特徴: 身体は茶褐色から暗色で、興奮すると赤や青の輝きが強く現れます。
- 生息環境: 田んぼや、流れの穏やかな水路。
- 魅力: 改良品種のショーベタにはない、素朴ながらも力強い「闘魚」としての風格が漂います。
2. 東北部(イサーン)タイ:ベタ・スマラグディナ (Betta smaragdina)
別名「ギターベタ」や「エメラルドベタ」と呼ばれ、マニアの間で非常に人気が高い系統です。
- 特徴: 鱗の一枚一枚が網目状にエメラルドグリーンに輝きます。特に尾ビレの条(スジ)がギターの弦のように美しく並ぶ個体は「ギター」と呼ばれ、珍重されます。
- 生息環境: 湿地帯や沼地。
- 魅力: メタリックなグリーンの輝きが身体全体を覆う姿は、ワイルドベタ界でも屈指の美しさです。
3. 南部タイ:ベタ・インベリス (Betta imbellis)
別名「ピースフル・ベタ(平和なベタ)」。マレーシア国境に近いタイ南部に見られます。
- 特徴: 尾ビレの縁に鮮やかな赤い「三日月(クレセント)」模様が入るのが最大の特徴です。体色は深いブルーに輝くことが多いです。
- 生息環境: 海に近い湿地や沼。
- 魅力: 比較的温和な性格をしており、その気品ある色彩から「最も完成されたワイルドベタ」と評されることもあります。
4. マハチャイ(サムットサコーン):ベタ・マハチャイエンシス (Betta mahachaiensis)
バンコク西側のマハチャイエリアにのみ生息する、非常に特殊な系統です。
- 特徴: 鱗がトウモロコシの粒のように美しく整列し、緑がかった青い輝きを放ちます。尾ビレがスペード型(尖った形)になるのが特徴です。
- 生息環境: ニッパヤシが茂る、少し塩分が含まれる「汽水域」近くの湿地。
- 魅力: 独特の生息環境が生んだスペードテールの美しさは、他の系統にはない独特の存在感があります。
5. 東部タイ:ベタ・サイアモリエナリス (Betta siamorientalis)
カンボジア国境に近い東部エリアに生息する、比較的新しく記載された系統です。
- 特徴: 身体が非常に黒っぽく、そこに青や緑の輝きが乗るため、非常にシックでクールな印象を与えます。
- 生息環境: 流れのない池や沼。
- 魅力: 黒と青のコントラストが美しく、落ち着いた大人のアクアリウムにぴったりの美貌を持っています。
あなたはどの系統が好みですか?
このように、タイのワイルドベタは地域ごとに全く異なる表情を見せてくれます。
- キラキラした輝きが好きなら: スマラグディナやマハチャイエンシス
- 深みのある色と形を楽しみたいなら: インベリスやスプレンデンス
- シックな雰囲気を求めるなら: サイアモリエナリス
自分の好みの「出身地」からベタを選んでみるのも、ワイルドベタ飼育の醍醐味の一つです。
次回予告
第4回では、これらの美しいワイルドベタたちがどのように評価されるのか、タイの**「公式コンテストの審査基準」**について詳しく解説します。プロがどこを見て「100点満点」をつけるのか、その秘密に迫ります。
参考文献
- 「มาตรฐานสายพันธุ์และเกณฑ์การตัดสินปลากัดป่าในประเทศไทย」タイ漁業局発行